生活保護の入居者が亡くなった

入居者が死亡した!

 先日、私が所有する都内のアパートの客付けをしてくれた不動産屋から、入居者(生活保護受給者)がお亡くなりになったと連絡がありました。

 

 まず最初に思ったのは「ヤバい!」です。部屋で亡くなられて死後3ヶ月経過していますなんてことになったらその部屋が事故物件になってしまうじゃないですか。いわゆる孤独死の問題ですね。その方は生活保護を受給されていたので、基本的には頼れる身内がおらず(少なくとも経済的には頼れる身内はいない)、孤独死されたのかも知れないという心配をしたわけです。

 

入居者が亡くなって焦る大家

 

 その方がお亡くなりになっているのに、自分の物件の心配しているなんて最低だと思う人もいるかも知れませんが、大家にとっては大事件なわけですよ。

 

 せっかくアパートに入居されて私と縁があった方がお亡くなりになられたことは正直残念ですし、末永く健康で私の物件にいて頂けることが私にとっても一番の願いです。ただ、人は必ずいつか死にます。その時に、私のアパートで孤独に亡くなられるのは私の望みではありませんし、さらに私の物件が事故物件になってしまうのも困ります。お亡くなりになった方だってそうだと思います。

 

 私にとってもその方にとっても幸いなことに、その方は病院でお亡くなりになりました。少なくともきちんとしたケアを受けており、誰にも気付かれることなく亡くなったわけではないのです。

 

 亡くなられたのは残念ですが、病院で亡くなられたことについてはその方にとっても私にとっても良かったと言えるのではないでしょうか。

 

 さて、その方が入退院を繰り返していることは去年から承知していました。

 

 去年の年末にその方からエアコンが壊れたので修理または交換して欲しいとの電話があったので、すぐにエアコンの交換の手配をして、その方に連絡したのですが、現在入院中なのでいつ部屋に行けるかわかりませんとのことであり、結局2ヶ月ほどエアコンの交換に時間がかかってしまいました。交換の際にもその週末だけ病院から部屋に帰るので、またしばらく入院すると仰っていたので、心配はしていたのです。

 

 その後特に連絡もなく、私も気にかけなくなっていたところに鬼籍に入られたとの不動産屋からの連絡だったので焦ったわけです。

 

 家賃に関しては区役所から直接振り込まれていたので滞納は一切ありません。だから、逆に怖かったんですよね。もしも家賃が振り込まれなかったらすぐにその確認をするじゃないですか。そうすると、お亡くなりになったのは最長でも一ヶ月前ということになります。

 

 しかし、役所から振り込まれていると滞納はあり得ないのですよ。だから夏にお亡くなりになってそのままなんてことだってありえるのかなと。

 

 そこを不動産屋に確認しとことろ、病院でお亡くなりになったと役所の担当者から連絡があったとのことでした。一安心でした。

 

 さて、入居者が亡くなったと連絡があったのが、10月の第一週。そしてその月の28日に退去したいとのこと。通常であれば、退去の連絡があった日から一か月後の退去になるので、11月の第一週に退去となり、11月分については日割で家賃が発生するのですが、事情が事情だけにそれを区役所に主張することはしませんでした。

 

 当日は区役所の担当者が退去の立ち合いのために正午に来るとのことだったので、少し早めに現地に到着してその部屋を確認しました。

 

 既に荷物等は全て撤去してあり、部屋はかなり汚れてはいるものの、何もない空っぽの状態でした。

 

空っぽの部屋

 

 ここで、気になったのが敷金です。

 

 私はいつも敷金は貰ってないんですね。どうせ返さないといけないわけだし、貰っても仕方がないですからね。その代わりにハウスクリーニング代を先に頂いています。ハウスクリーニング代で頂いていればアパートから退去する際に返還する必要はないわけで、ハウスクリーニングの費用として大家が自由に使えるわけです。

 

 もちろん、ハウスクリーニングを高額に設定しているわけではないですよ。家賃5万円前後のワンルームで3万円しかもらっていないので、敷金よりも安いです。部屋の状態によっては余ることもありますし、エアコンのクリーニング(喫煙者なんかだとエアコンの中がヤニで凄いことになっていることが多い)なんかも含めると足が出ちゃうこともあるので、別にこれで儲けているわけではありません。

 

 しかし、生活保護の方からはハウスクリーニング代って貰えないんですよ。いや、正確に言うと入居時にハウスクリーニング代という項目での支出が役所では出来ないんですね。つまり、敷金と言う形でなら払えるけど、ハウスクリーニング代というものは払えないということです。

 

 なので、この方が入居した時は、いつもは貰っていない敷金を貰っていたのです。

 

 さて、これの何が問題か。このサイトを読んで貰っている方ならわかりますよね。敷金は返さないといけないんです。なので、基本的には区役所に敷金は返すことになるんです。

 

 そこで私はどうしようかなと思ったわけです。一旦敷金を返して、その後ハウスクリーニング代を請求する形にしないと役所としては払えないのか、それともそこを相殺して余った分を返せば良いのか。それとも事情を説明して敷金を返さないということもありなのか。

 

 敷金を返還してハウスクリーニング代を請求というのは一番面倒だからなんとかして避けたい。せめて相殺した上でこちらが残りを返還という形まではもっていきたい。

 

 でも、出来れば面倒だからリフォーム代とハウスクリーニング代を合わせて敷金で払うという方向でなんとか話を進めたいなと思っていました。

 

 ハウスクリーニング代って微妙なんですよ。入居者が負担するのか大家が負担するのかって。通常の使用の範囲内の汚れや傷であれば次の入居者のために大家が負担して部屋を綺麗にするっていうのが基本だけど、どこまでが通常の使用の範囲内って結構揉める恐れもあって。

 

 でも、入居時に特約でハウスクリーニング代を支払うって付けておいて、先に貰っちゃってれば全く問題はないんです。

 

 ただ、この入居者に関しては前述のとおりハウスクリーニング代は貰っておらず敷金で貰っているんです。だから面倒だなあと思いまして。

 

 一応、部屋の状態を確認すると、フローリングや巾木などにも結構傷がついており、また、入居時に付けておいたカーテンもなくなっていたので、ハウスクリーニング費用と原状回復のための補修、カーテン代なども請求するということで敷金を使わせて貰えないかと交渉しようかと思いました。どんなカーテンが付いていてどのくらいの値段かなんてわかるわけないので、補修と合わせてそこらへんで値段を調整して敷金と相殺でどうですかと。向こうとしてもお金を払わないといけないわけじゃないから悪い話じゃないと思うんですよね。

 

 時間になって区役所の担当者が来てくれました。勝手に男性が来ると想像していたのですがうら若き女性だったのでちょっと焦ってしまいました。

 

 一緒に部屋に入り、亡くなられた入居者の話を少し聞いた後、こちらから「実は敷金の事でご相談がありまして。このアパートは通常敷金は頂いておらず、ハウスクリーニング代を頂いているのですが、入居の際に区役所ではハウスクリーニング代としてはお金が出せないので敷金という形にしてもらえませんかと入居者さんから相談を受けたので、そのようにしたんです。」と切り出しました。

 

 担当者の顔がサッと曇ります。

 

区役所の担当書の曇った顔

 

 あ、ちょっとヤバそうだなと思いながら私は続けました。「で、お預かりしている敷金なんですが、ハウスクリーニング代として使わせて頂けないでしょうか。見て頂いたらわかるとおり、フローリングなどの傷も結構ありますが、そこらへんはご請求致しませんので。」

 

 これで渋られたらカーテンのことも持ち出して、傷とカーテンとハウスクリーニング代の合わせ技一本で敷金と相殺でどうですかと言おうと思っていたのですが、担当者はちょっと驚きながら満面の笑みで「そうして頂けると助かります!」との返答。

 

区役所の担当者の明るい顔

 

 多分、敷金じゃ足りないからリフォーム代を請求させてくれと私が言うのではと身構えていたのではないでしょうか。

 

 なので、カーテンの話を持ち出すまでもなく、非常に良好な雰囲気で退去の立ち合いを終えることが出来ました。生活保護じゃない通常の立ち合いよりも楽でしたね。

 

 よく考えてみると、生活保護を受給している場合、毎月役所に収入の状況などを報告しなくてはいけないし、福祉事務所のケースワーカーが訪問とかもするから孤独死して数か月も経っているなんてことはあり得ないんですよね。

 

 あとは、生活保護を受給していると医療費も無料なので、身体の調子が悪ければ医者にはすぐに行くわけです。医療費をケチって医者に行かないという選択肢はないのです。

 

 つまり、一般的な人よりも生活保護受給者は、孤独死して放置されて事故物件になるというリスクが圧倒的に低いということに気づきました。

 

 不動産賃貸業で最も大きなリスクである空室。アパートの空室で悩んでいる大家さんは生活保護受給者の受け入れを考えてみるのも手ですよ。


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